「Vertex AIとGemini API、どちらを使えばいいのか」——Google CloudでAI開発を始めようとしたエンジニアの多くが、最初にぶつかる疑問ではないでしょうか。
Vertex AIはGoogle Cloudが提供するAI開発のフルマネージドプラットフォームです。しかし、Google AI Studio、Gemini Developer API、Vertex AI Studioなど、似た名前のサービスが複数存在し、それぞれの関係を理解するのは容易ではありません。
本記事では、Vertex AIの全体像を整理し、Geminiとの関係、主要機能、料金体系、そして「どんな場合にVertex AIを選ぶべきか」の判断基準まで解説します。
Vertex AIとは
Vertex AI(バーテックスAI)は、Google Cloud上で提供される、AI開発のためのフルマネージドプラットフォームです。機械学習モデルの構築、トレーニング、チューニング、デプロイ、運用監視まで、AIプロジェクトのライフサイクル全体をカバーします。
ポイントは「プラットフォーム」であるということ。Vertex AI自体がAIモデルなのではなく、Geminiをはじめとする200以上のAIモデルを選択・カスタマイズ・運用するための基盤です。
たとえるなら、Geminiが「エンジン」、Vertex AIが「車体・コックピット・整備工場」をまとめた統合環境です。
Vertex AIとGeminiの違い
最も混乱しやすいポイントなので、最初に整理します。
| Vertex AI | Gemini | |
|---|---|---|
| 種別 | AI開発プラットフォーム | 大規模言語モデル(LLM) |
| 提供元 | Google Cloud | Google DeepMind |
| 役割 | モデルの選択・チューニング・デプロイ・運用 | テキスト・画像・音声・動画の理解と生成 |
| 関係性 | Geminiを動かす基盤 | Vertex AI上で動作するモデルの一つ |
| 課金 | Google Cloud課金(プロジェクト単位) | トークン単位の従量課金 |
つまり、GeminiはVertex AI上で利用できるモデルの一つであり、Vertex AIはGeminiを本番環境で安全に運用するためのプラットフォームです。
Gemini Developer APIとVertex AI Gemini APIの使い分け
2026年現在、GeminiのAPIは2つのルートで利用できます。ここが最も混乱を生んでいるポイントです。
| Gemini Developer API | Vertex AI Gemini API | |
|---|---|---|
| 入口 | Google AI Studio | Vertex AI Studio |
| 認証方式 | APIキー | Google Cloudサービスアカウント(IAM) |
| 始めやすさ | ★★★(APIキー発行で即利用可) | ★★☆(GCPプロジェクト設定が必要) |
| セキュリティ | 基本的 | エンタープライズグレード(IAM、VPC SC) |
| 監査・ガバナンス | なし | Cloud Audit Logs対応 |
| 利用可能モデル | Geminiシリーズ | Gemini + Claude + Llama + 200以上 |
| カスタマイズ | 限定的 | ファインチューニング、RLHF対応 |
| 本番運用機能 | なし | エンドポイント管理、モニタリング、A/Bテスト |
| 料金 | 無料枠あり、従量課金 | Google Cloud課金($300無料クレジット) |
| 想定ユーザー | 個人開発者、プロトタイプ | 企業、本番アプリケーション |
判断基準はシンプルです:
- 試す・学ぶ・プロトタイプ → Gemini Developer API(Google AI Studio)
- 本番デプロイ・企業利用・複数モデル比較 → Vertex AI
Google自身も、Gemini Developer APIで開発を始め、アプリケーションが成熟したらVertex AIに移行する、という成長パスを公式ドキュメントで推奨しています。2026年現在、両APIは統一SDKであるgoogle-genaiライブラリから利用でき、移行コストは小さくなっています。
Vertex AIの主要機能
Model Garden
Vertex AIの「モデルストア」です。以下のモデルにアクセスできます。
- Google製モデル: Gemini 3、Imagen(画像生成)、Veo(動画生成)、Chirp(音声認識)
- サードパーティモデル: Anthropic Claude、Mistral
- オープンソースモデル: Gemma、Llama 3.2
200以上のモデルから、プロジェクトの要件に合ったものを選択し、そのままVertex AI上でテスト・デプロイできます。複数モデルを並行評価して最適なものを選ぶ、という使い方が本来のModel Gardenの価値です。
Vertex AI Studio
Vertex AI Studioは、ブラウザ上でGeminiモデルを試すためのワークスペースです。コードを書かずにプロンプトの設計・テスト・チューニングができます。
主にできること:
- テキスト、画像、動画を使ったプロンプトの設計と実行
- モデルのファインチューニング設定
- APIコードの自動生成(Python、Node.js、Go等)
- プロンプトのバージョン管理
Google AI Studioと似ていますが、Vertex AI Studioはエンタープライズ向けのセキュリティ(IAM、VPC Service Controls)が組み込まれている点が異なります。
Agent Builder
Agent Builderは、企業向けのAIエージェントを構築・デプロイするためのプラットフォームです。Agent Development Kit(ADK)を使って、以下のようなエージェントを開発できます。
- 社内データを参照して回答するRAGチャットボット
- ワークフローを自動化するタスクエージェント
- 顧客対応を行うカスタマーサービスエージェント
Vertex AI Search
企業が持つ独自のデータ(社内文書、製品カタログ、FAQ等)を基に、Google品質の検索エンジンを構築できる機能です。生成AIを活用し、単なるキーワードマッチではなく、自然言語での質問に対して要約した回答を返します。
AutoML
機械学習の専門知識がなくても、ノーコード・ローコードでカスタムモデルをトレーニングできる機能です。表形式データ、画像分類、テキスト分類などのモデルを、データをアップロードするだけで作成できます。
MLOps機能
本番環境でのAI運用に必要な機能群です。
- Vertex AI Pipelines: MLワークフローの自動化
- Model Registry: モデルのバージョン管理
- Model Monitoring: 本番モデルのパフォーマンス監視
- Feature Store: 特徴量の一元管理と再利用
Vertex AIの料金体系
Vertex AIの料金は複数の要素で構成されます。
Geminiモデルの利用料金(2026年4月時点の目安)
| モデル | 入力 | 出力 |
|---|---|---|
| Gemini 3 Flash | 低コスト | 低コスト |
| Gemini 3 Pro | 中コスト | 中コスト |
※最新の正確な料金はGoogle Cloudの公式料金ページを確認してください。
その他の課金要素
- トレーニング: カスタムモデルのトレーニングに使用したコンピューティングリソース(GPU時間)
- 予測(推論): デプロイしたモデルへのリクエスト数とコンピューティングリソース
- ストレージ: モデルやデータの保存容量
- Vertex AI Search: クエリ数に応じた従量課金
無料枠
Google Cloudの新規利用者には**$300分の無料クレジット**が付与されます。Vertex AIを含むGoogle Cloudの各サービスに使用でき、Gemini APIの試用にも適用されます。
Vertex AIを選ぶべきケース
Vertex AIが適している場合
- 本番アプリケーションにAIを組み込む — エンドポイント管理、スケーリング、モニタリングが必要
- 複数のAIモデルを比較・検証したい — Model Gardenで200以上のモデルにアクセス
- 企業のセキュリティ・コンプライアンス要件がある — IAM、監査ログ、VPC Service Controlsが必須
- Google Cloudの他サービス(BigQuery、Cloud Storage等)とデータ連携する — Vertex AIはBigQueryとネイティブ統合
- カスタムモデルのトレーニングが必要 — AutoMLやカスタムトレーニングジョブ
Vertex AIが不要な場合
- Gemini APIを試したいだけ — Google AI Studio + Gemini Developer APIで十分
- チャットボットを作りたいだけ — Gemini APIを直接呼ぶ方がシンプル
- 予算が限られている個人開発 — Vertex AIのエンタープライズ機能はオーバースペック
Google AI StudioとVertex AI Studioの違い
| Google AI Studio | Vertex AI Studio | |
|---|---|---|
| 位置づけ | 開発者向けの無料ツール | エンタープライズ向け開発環境 |
| 認証 | Googleアカウント + APIキー | Google Cloud IAM |
| 利用可能モデル | Geminiのみ | Gemini + 200以上のモデル |
| セキュリティ | 基本的 | エンタープライズグレード |
| ファインチューニング | 限定的 | フル対応 |
| 本番デプロイ | 非対応 | 対応 |
| 料金 | 無料枠あり | Google Cloud課金 |
迷ったら、まずGoogle AI Studioで試し、本番環境が必要になったらVertex AI Studioに移行するのが最も効率的なアプローチです。
まとめ
Vertex AIは、Google CloudのフルマネージドAI開発プラットフォームです。
- Vertex AIはプラットフォーム、Geminiはモデル — 車体とエンジンの関係
- Gemini Developer API vs Vertex AI Gemini API — 試すならDeveloper API、本番ならVertex AI
- 主要機能: Model Garden(200+モデル)、Vertex AI Studio、Agent Builder、AutoML
- 料金: トークン単位の従量課金 + コンピューティングリソース。新規$300無料クレジット
- 判断基準: 本番デプロイ・企業利用・マルチモデル比較が必要ならVertex AI
AIの活用が当たり前になりつつある今、「どのプラットフォームで開発するか」の選択は、プロジェクトの成功を左右する重要な判断です。まずはGoogle AI Studioで手を動かしてみて、本番環境が見えてきたらVertex AIへの移行を検討する——このステップが最も無理のない始め方ではないでしょうか。
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